【本の紹介】「熟柿」 佐藤正午 著
直木賞受賞作「月の満ち欠け」の不思議な読後感は今も覚えている。この本の参考文献にあった「前世を記憶する子どもたち」をすぐに買って、物語の背景まで読み取ろうと必死になった。
次に手に取った「鳩の撃退法」(今は下巻の途中)では、私の忍耐力が試されていて、どうもなかなか進まない。登場人物の相関がややこしい。時系列に進まないのもあって脳がやや悲鳴を上げている状態。
なので、この本もちょっとためらったけれど、佐藤氏が長年連載していた長編でタイトルに込めた想いを新聞で読んで「よし!」と読み始めた。
大変なことが起こっているのに、静かに淡々とした描写は時にもどかしくもあるけれど、必要以上の感情移入をせず、その成り行きを俯瞰できる。
そのうち、次々に繰り広げられる「なんで、そうなる?」にも慣れてきていることに気づいた時、自分の中のいけないものに触れたようで少し苦しくなった。
佐藤氏の小説は”砂漠”に似ている。だけどカラッカラで終わらず、ちゃんとオアシスに辿り着ける。そこで飲める水は読む人によって味が違うんだろうなあ。
読み終えて少し時間が経ってから「熟柿」というタイトルを自分なりに嚙み砕くことができた。ぜひ、皆さまにも独特の噛み応えを堪能いただきたい。

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